2. ポリ(N-置換アクリルアミド)の相分離と水和
2.1 ポリ(N-イソプロピル アクリルアミド)の相分離と水和
代表的なポリ(N-置換アクリルアミド)であるポリ(N-イソプロピルアクリルアミド) (PiPA)は33 oC付近にLCSTを持つ。その主要なIRバンドはC-H伸縮振動バンド(n(C-H)),アミド基のC=O伸縮振動に帰属されるamide Iバンド,アミド基のN-H変角振動に帰属されるamide IIバンドであり,相分離
に伴いn(C-H),amide IIバンドは低波数シフト,amide Iバンドは高波数シフトする(図5))。各バンドのシフトは,対応する官能基の水和状態や 相互作用の変化で説明することができる。例えば,C=O…H-X水素結合の強度が下がるとC=O結合上の電子密度が上がるとともに結合長が短くなりamide Iバンドは高波数シフトする。また,一般にアルキル基
が水と相互作用するとn(C-H)バンドは高波数シフトする)。これは,O-H…OH2のような通常のX-H…Y型の水素結合においてX-H伸縮振動が低波数シフトするのとは対照的であり,blue shifting H-bondとも呼ばれている)。
amide Iバンドの温度変化を詳しく見ると,相分離温度(Tp)以下では水と水素結合したC=Oに帰属される1625 cm-1の成分のみからなるが,Tp以上ではアミド基間の水素結合(C=O…H-N)に帰属される1650 cm-1の成分が加わり二成分になることが分かる(図7)。このアミド基間水素結合のモル分率は相分離が完
了する40 oC以上では約0.13になる。amide IIバンドすなわちN-H基の側から見ても同様な変化が観察される。残りのC=O基やN-H基は相分離後も水と水素結合している。一方、n(C-H)バンドの位置からすると,相分離状態でアルキル基は
ほぼ完全に脱水和されており、相転移後にはアミド基が選択的に水和されていることになる。
図5 ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)の赤外スペクトル(上:24oC)と赤外差スペクトル(下:24から36oC)
図6 ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)の赤外スペクトルの帰属 |
図7 ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)のアミドIバンドの温度変化と帰属 |