1. 温度応答性高 分子とは
ある種の高分子の水溶液は,下限臨界溶液温度(Lower Critical Solution
Temperature, LCST)以上の温度に加熱すると白濁し,それ以下の温度に 冷却すると再び溶解して透明に戻るという可逆的な相分離挙動を示す(図1)。このような高分子として,ポリ(N-置換アクリルアミド) ),ポリ(N-置換メタクリルアミド),ポリエーテル類)やメチルセルロ−ス等が挙げられる。逆に,低温で相 分離し,高温で溶解する上限臨界溶液温度(Upper Critical Solution
Temperature, UCST)を示す高分子としては,双極性高分子であるスルホ ベタインポリマー等が知られている。これらの高分子は,高分子水溶液の相転移現象を解明するという純粋に基礎的な興味からばかリでなく,インテリジェント
ポリマーとしての応用面の興味からも活発に研究されている。中でもポリ(N-イソプロピルアクリルアミド) (PiPA)の相分離は, 濁度測定や熱量測定,核磁気共鳴,蛍光,光散乱,中性子散乱等の方法を用いて多方面から解析されてきた。これら の研究によりPiPAの巨視的な相分離現象は,コイル−グロビュール転移
と呼ばれる高分子鎖の収縮現象を伴うことが明らかになってきた。すなわち,LCST以下ではアミド基と水との強い相互作用により高分子 鎖は溶解してランダムコイル状のコンフォメーションをとるが,水温の上昇によりアミド基と水との水素結合が不安定になると伴に疎水部の脱水和が起ると,ポ
リマー鎖が収縮してグロビュール状になる(図2)。さらに疎水性相互作用によりグロビュールが会合し
て,巨視的な相分離が起るのである。このように高分子水溶液の相分離現象には高分子と水との相互作用の変化が深く関わっており,ポリマーの各部位の水和状 態がどのように変化しているかを明らかにすることは重要である。赤外スペクトルは分子間の相互作用に敏感であるため、これを用いて高分子の水和を解析する
ことから一連の研究を始めた。
T < LCST T > LCST図1 温度応答性高分子水溶液の相分離 図2 ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)の コイル-グロビュール転移 |
図3 フーリエ変換赤外分光光度計
図4 溶液用温度可変透過型赤外セル |