界面活性剤とわたしたちの暮らし

石鹸と合成洗剤の歴史

T.石鹸の歴史

(1)いにしえの石鹸

人類が洗剤を必要とし、今日われわれが「界面活性剤」と呼んでいるものに関心を持つようになったのは、非常に古い。記録に現れた最古のものとしては、紀元前3000年ごろ、今日のイラン・イラク一帯にいたシュメール族が、粘土板に石鹸の使用法と製法を、クサビ形文字で彫り刻んだものがある。この石鹸は、油と木灰(主成分は炭酸カリ)を混ぜたものである。紀元前2000年ごろのエジプトの古墳の壁画に洗濯の様子が描かれており、洗浄剤に天然産の炭酸ソーダ結晶、酸性白土、植物の実が使用されていた。また紀元前2000年から1000年ごろの小アジア地方では、植物の灰が使われていたようである。

1世紀に入ると、今のフランス付近に住んでいたガリア人が、動物の脂肪と木灰から、石鹸を製造した記録がある。これによると、山羊の脂とブナの木灰からつくる石鹸がもっとも優れ、石鹸を固めるには、塩を使うと良いとされている。その後、石鹸の製法は各地で細々と伝えられながら、しだいに進歩をとげていった。7世紀には固形の石鹸がアラビア人によってつくられ、やがてそれがスペインにもたらされた。9世紀のヨーロッパでは、家内工業ではあったが、石鹸職人が出現し、イタリアやスペインに石鹸ギルドが成立した。地中海のオリーブとバリラ(海藻灰ソーダ)が石鹸の原料に用いられたため、イタリアのベネチアや、スペインのアリカンテおよびフランスのマルセイユが石鹸生産の中心になった。ヨーロッパで大量に本格的な石鹸製造が始まったのは、12世紀に入ってからである。13〜14世紀にはイギリスに石鹸業者のギルドが成立し、14世紀にはドイツ南部に石鹸工場が作られ、6世紀には移民と共に石鹸製造法がアメリカに伝わった。

 

(2)日本における洗浄と石鹸

日本では応神天皇(300年代後半)のころ、衣服を洗う方法として灰汁が使われていたらしい。8世紀ごろ書かれた古事記や万葉集の中に「ときあらい」や「さらす」など、洗濯に関する言葉がみられる。このころの洗浄剤にはさいかちが使われていた。さいかちには泡立ちの良いサポニンと呼ばれる成分が含まれている。10世紀ごろの洗浄剤としては、さいかち、藻豆(そうず=大豆や小豆の粉)、あかざの灰などが延喜式や木草和名に記されている。

日本における石鹸は、天文12年(1543年)に鉄砲と一緒にポルトガル人によってもたらされ「シャボン」と呼ばれた。「シャボン」はポルトガル語のサボンに由来するといわれている。このころの日本では石鹸がたいへんな貴重品であった。一般庶民は、小豆の粉、ぬか、みかんの皮などを袋に入れて使っていた。また洗濯には木灰汁が利用されていた。

 


(3)石鹸工業の始まり

ヨーロッパで石鹸製造が本格的な工業として確立したのは、1790年にフランスのルブランが、石鹸の主原料の一つである炭酸ナトリウムの製造法を発明してからである。つづいて1807年に「透明石鹸」が発明され、1829年にヤシ油を原料に用いた石鹸がつくられた。一方この頃から石鹸の化学組成を解明するための研究も盛んになり、シェヴルール(フランス)らによって、石鹸が脂肪酸のアルカリ塩であることが明らかにされた。

石鹸は優れた洗浄力をもっているが、その化学組成が弱酸である高級脂肪酸(炭素数の多い長鎖の脂肪酸を意味する)と強塩基であるナトリウムやカリウムから成り立つために、いくつかの欠点をもっている。石鹸を水に溶かすと、水分子と反応して、「加水分解」をお越しアルカリ性を示したり、硬度の高い水で使用すると、水に溶けているカルシウムやマグネシウムなどの金属イオンと結合して、「スカム」と呼ばれる水に不溶性の金属塩になったりする。日本では一般に水質が良いので、この不溶性沈澱ができることはあまり問題にならないが、水の硬度の高いヨーロッパでは、見過ごすことができない事柄である。この欠点を改善しようとする試みが、その後の合成洗剤の発達の一因となった。

日本では、明治4年(1871年)にソーダ工場がつくられ、翌明治5年に京都の舎密局で石鹸の本格的な製造を始めた。明治6年には、長崎と横浜で民間人による石鹸会社が設立され、洗濯用石鹸がつくられた。また翌7年には化粧用石鹸が売り出された。その後、大正末期から昭和の初期にかけて、近代的な設備を持つ工業へと成長した。

 

U.合成洗剤の歴史

石鹸以外の物質を洗浄を目的としてつくるようになったのは、1916年のことである。当時ヨーロッパは第一次世界大戦の最中で、各国とも食料事情が悪化していた。なかでもドイツは食用油脂が極度に不足したため、動植物油から石鹸をつくることが困難になっていた。それゆえ法令によって、天然の油脂をつかわない洗浄剤として、石炭乾留のとき副生してくるナフタリンの誘導体をもちいてつくった「アルキルナフタリンスルホン酸塩」を使うことにした。この合成品は、汚れを乳化する力やものをぬらす力(湿潤力)は良好であったが、洗浄力は石鹸におよばなかった。その結果、第一次大戦が終わって食料事情が回復すると、洗剤ももとの石鹸に戻った。

1928年の「アルキル硫酸エステル塩」を皮切りに「アルキルベンゼンスルホン酸塩」や「ポリオキシエチレンアルキルエーテル」・「ポリオキシエチレン脂肪酸エステル」など、今日合成洗剤として使われている界面活性剤の大部分が、次々と開発された。代表的な合成洗剤の一つである「アルキル硫酸エステル塩」(略してAS)は、1836年ペゴリ(フランス)によって発明されたもので、最初の高級アルコール系洗剤として、1928年ベーメ社(ドイツ)で開発された。原料の高級アルコールは天然の動植物油を水素で還元して作られた。この洗剤は従来の石鹸に比べて、酸・アルカリ・硬水・海水に対して安定である。この点に注目したアメリカのデュポン社とプロクター・アンド・ギャンブル社がドイツから技術を導入して、1932年に高級アルコール系洗剤として大々的に売り出した。

次に、「ソープレスソープ」と呼ばれ、今日の合成洗剤の発展に最も寄与した「アルキルベンゼンスルホン酸塩」(略してABS)は、わずかに構造の違う「アルキルスルホン酸塩」とともに、1933年ドイツのIG社によって開発された。これら二つの界面活性剤は、それ以前の界面活性剤がいずれも天然油脂を主原料としているのに対して、石炭や石油を原料としてつくられた合成パラフィンが用いられた。その後、石油化学の発展に伴って、洗剤といえばABSを指すほどに普及した。

        日本では、昭和8年(1933年)にドイツから技術を導入して、アルキル硫酸エステル塩の工業化に着手した。その翌年には、原料の高級アルコールをヤシ油や鯨油から製造することにも成功した。これがわが国における合成洗剤の始まりである。しかし、この時の製品は、いずれも工業用であった。課程用合成洗剤は、昭和12年(1937年)に売り出された「モノゲン」が最初である。

 

(1)第二次世界大戦と合成洗剤

第二次世界大戦に突入すると、石鹸の主原料である油脂が食料と競合するため、石鹸の生産量が著しく低下し、人々はその不足に悩まされた。そこで、再び油脂を必要としない洗剤の開発に力が注がれるようになった。アメリカではABSを石鹸の弟代替品として軍需用に使い、ドイツでも原料の合成アルコールの工業化に成功した。さらに、界面活性剤の洗浄力を高める研究が行われ、リンを含む化合物(複合リン酸塩)や「カルボキシメチルセルロース」を添加すると、洗浄力が著しく向上することが発見された。これらの添加物は一般に「ビルダー」(洗浄効果向上剤)と呼ばれている。この「ビルダー」の開発こそ、戦後合成洗剤が急速に伸びた大きな理由の一つである。1953年には合成洗剤が粉末・固形石鹸の合計を上回り、家庭用洗剤の主役は合成品に変わった。

ABSは水に溶けて中性であり、酸・アルカリ・硬水などに対して安定であるため、石鹸のように酸性の水中で分解したり、硬水中で不溶性の石鹸カスを作ったりしないことなどが、ABSが急速に石鹸に置き変わった理由の一つである。また、これらのことは単に洗浄力の低下を防ぐだけでなく、洗浄容器に付着する石鹸カスを取り除く作業が省ける利点にもなった。

 

(2)合成洗剤のソフト化

合成洗剤の使用量の増大は、他方で環境問題を引き起こした。昭和30年代に使用されたABSは「ハード型」と呼ばれ、枝分かれのあるアルキルベンゼンからできていて、化学的にも生物学的にも分解しにくい極めて安定な物質であった。そのため、河川の水質汚濁や地下水の汚染問題を起こしたりする。

1957年頃から、アメリカやイギリスで合成洗剤の起泡が下水処理を困難にすることが問題となり、微生物分解の容易な直鎖化合物からなる「ソフト型」洗剤への転換が進められた。アメリカでは1965年にソフト化率が95%に達し、日本でも昭和46年(1971年)には96%がソフト型に替わった。

ハード型のABSに替わってソフト型として用いられた合成洗剤は、直鎖状のアルキルベンゼンからなる「直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩」(LAS)が主であったが、それ以外に「アルキル硫酸エステル塩」(AS)、「アルファ・オレフィンスルホン酸塩」(AOS)および[ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩](AES)などがある。

 

(3)無リン洗剤の開発

洗剤のソフト化問題に続いて、新たな環境問題として、河川・湖沼・海などの「富栄養化」と合成洗剤とのかかわりが注目されるようになった。富栄養化は藻類の異常な繁茂をもたらす。その結果、水の腐敗やプランクトンの異常発生を引き起こし、飲料水や河川・湖沼の悪臭発生および漁業に大きな被害を及ぼした。この富栄養化を促進する要因は種々あるが、その中の一つに排水中のリンがあり、そのことから合成洗剤に含まれるビルダーの一つである「トリポリリン酸」がやり玉に上がった。

湖沼の富栄養化の問題は、1965年頃から北ヨーロッパ、アメリカ、カナダで起こった。日本では昭和44年(1969年)に琵琶湖を水源とする京都市や大津市で、水道水が異臭を放って問題になったのに始まる。続いて昭和47年(1972年)に瀬戸内海で赤潮の大発生があり、閉鎖水域での富栄養化が大きな社会問題として取り上げられるようになった。昭和55年(1980年)に富栄養化の防止に関する滋賀県条例が公布された。続いて2年後の昭和57年に、茨城県でも霞ヶ浦に関して同様な条例が公布され、有リン洗剤の販売と使用が禁止された。

リン代替ビルダーとしてゼオライトを配合した本格的な無リン洗剤が市場に出たのは、昭和55年である。そして、昭和60年には全合成洗剤中の94%に達し、有リン洗剤にほぼとって替わった。

肝心なのは、洗剤の無リン化による湖沼の水質保全であるが、残念ながら効果の程ははっきりしないようである。もともと富栄養化の原因は、リン以外に生活排水が含む窒素化合物を始め、いろいろの有機物質が考えられる。さらにリンの流入源には洗剤以外にも工場排水・農畜産排出物・し尿・降雨などがあって、そのうち洗剤からのリンは全流出リンの約18%に過ぎない。結論をいえば、富栄養化の抑制には、下水処理施設の拡充が急務であると考えられている。

 

(4)酵素洗剤

合成洗剤の「ソフト化」・「無リン化」に次ぐ第三の技術改良に「酵素入り洗剤」がある。これは汚垢に含まれる、皮膚の老廃物であるタンパク質を酵素で分解させることによって、洗浄効果の改善を狙ったものである。

古く1913年にはドイツで酵素が用いられたが、添加したタンパク質分解酵素が、アルカリ性である洗濯液の中では活性を失うため、洗浄効果を高めることができなかった。その後、耐アルカリ性に優れた酵素であるアルカリ・プロテアーゼが発見され、また酵素を粒状にすることに成功したために本格的な酵素洗剤の時代を迎えることになった。


V.洗剤はどんなものからできているか

 洗剤の成分は、主剤である界面活性剤と、助剤の二つに分けることができる。

 

 @主剤・界面活性剤

洗い物から汚れを引き離し、水の中に溶かし出して、汚れを落とす主役がこの界面活性剤である。界面活性剤の種類の違いで石鹸と合成洗剤に分かれる。界面活性剤として脂肪酸塩のみを含むものを石鹸という。合成洗剤の界面活性剤には、現在主流であるLASをはじめAOS、AES、SAS(アルキルスルホン酸ナトリウム)など十数種類のものが使われている。

 

 A助剤・ビルダー(洗浄効果向上剤)

洗剤の成分中、界面活性剤以外のものを助剤(ビルダー)という。このビルダーは単なる増量剤ではなく、洗浄力の向上、再汚染防止、洗剤粉末の吸湿防止など様々な役割がある。脂肪酸石鹸の欠点は、カルシウムやマグネシウムイオンを多量に含む硬水中で、金属石鹸と呼ばれる水に不溶の沈澱物を作り、それが洗浄物に付着して洗浄効果を著しく低くすることである。界面活性剤にもカルシウムなどと反応して化合物を作るものもあるが、それらは水にある程度溶けるので、水の硬度がよほど高くない限り沈澱することはない。石鹸はまた、中性の水に溶かすとその一部は加水分解して原料の脂肪酸と水酸化ナトリウムになり、水をアルカリ性に変える。石鹸に使う高級脂肪酸の炭化水素鎖は、炭素数が12から18で、そのままでは水に不溶性のため沈澱となって浮遊し、洗濯物に付着して黄化の原因になる。石鹸を酸性の温泉や硬水で使うと、全然溶けずに加水分解でできた脂肪酸が粘りついて洗浄の効果を失う。

このため、洗濯用の粉石鹸には、炭酸ナトリウムやケイ酸ナトリウムなどアルカリ剤を加えて石鹸の分解を防ぐと同時に、炭酸塩によってカルシウムやマグネシウムを炭酸塩に変えて、重金属イオンを封鎖している。粉石鹸は高温・アルカリ性の条件で優れた洗浄力を示すので、綿布の洗濯などには適しているが、アルカリに弱い羊毛・絹・ナイロン・毛髪などの洗浄には好ましくない。合成洗剤は水に溶かして中性であるだけでなく、硬水で使っても、洗濯物を汚すような沈澱を作らない点で確かに優れている。しかし、硬水中では、水に溶解性があるというものの、カルシウムやマグネシウムなどの重金属イオンと反応して、洗浄効果が低下するので、洗濯用の合成洗剤には、これらの重金属と洗剤以上に強く反応して重金属イオンを封鎖する成分が加えられている。

 

(3)洗剤の無リン化・低リン化

一般洗濯用洗剤の界面活性剤は、LASが主体である。このLASに対し、トリポリリン酸は極めて優れたビルダーであり、環境問題対策として単純にリン酸塩の配合量を減らすことは、洗浄力の低下につながる重大な問題であった。昭和51年に、西独のヘンケル社およびアメリカのプロクター・アンド・ギャンブル社は、数多くの代替ビルダーの中から「ゼオライト」が最も有効であるとして、ゼオライトを配合した洗剤を発売した。日本では昭和57年度初めには有リンと無リン洗剤の生産比率が約70対30であったが、現在では市販洗剤の90%以上が無リン洗剤になっている。

 なお、トリポリリン酸ナトリウムのビルダーとしての機能は次のようである。

        @金属イオン封鎖作用(硬水軟化作用)

        A分散作用・・・・・・・汚れを洗濯液の中に「乳化」・「分散」させる。

        Bアルカリ緩衝作用・・・洗濯液を適度なアルカリ性に保持する。

        C再付着防止作用・・・・汚れが再び繊維に付着しないようにする。

        D固結防止作用・・・・・吸湿性の高い洗剤が固まるのを防止する。

 

(4)ゼオライトの働き

 無リン洗剤に用いられている合成ゼオライトは、三次元的に発達した骨格構造を持つアルミノケイ酸塩であり、大きな吸着能、優れたイオン交換性をもっている。ゼオライトのビルダーとしての大きな役割は、主にイオン交換能に基づく硬水軟化作用にある。ゼオライトの負電荷を電気的に中和しているナトリウムイオンは、水中のカルシウムイオンなどの多価金属イオンと簡単に交換により置換し、水を軟化する効果がある。

しかし、ゼオライトにはアルカリ緩衝能はない。そこで、無リン洗剤では、アルカリビルダーの配合率を増やすなどの工夫がなされている。

 

 

(5)酵素の働き

現在、アルカリ性洗濯液中でも安定で活性を持つアルカリ・プロテアーゼというタンパク質分解酵素が洗剤に利用されている。最初は欧米の高温洗濯に合わせて開発された高温用の酵素が用いられていたが、ごく最近低温用酵素の開発に成功し、現在市販されている製品には低温用のものが配合されている。昭和60年で、一般洗濯用洗剤の50%以上のものに酵素が配合されている。

衣類に付着する落ちにくい汚れは、汚垢・血液その他食品などのタンパク質性のものが多い。タンパク質の多くは水に溶けにくく、タンパク質以外の汚れ成分を繊維に固着させる接着剤の役目をして洗浄効果を阻害している。酵素はこのタンパク質を水溶性にしたりあるいは水に容易に分散する形に変化させて、タンパク質の汚れだけでなく、タンパク質で強固に付着している他の汚れも除去し易くする働きをする。酵素配合量は、粉末合成洗剤で洗剤重量に対し、0.2〜1%の範囲である。

 

(6)蛍光剤の働き

市販の白い衣料は、工場から出荷する段階ですでにその繊維が蛍光剤で増白仕上げされている。しかし、綿、麻、レーヨンなどセルロース系繊維用の蛍光剤は太陽光線に弱く、また洗濯を繰り返すうちに落ちてしまう。そこで衣料の白さを保つためには、この種の蛍光剤を洗濯の度ごとに補給する必要があるという考えから、多くの一般洗濯用洗剤には、0.2〜0.5%とその量は少ないが、蛍光剤が配合されている。

黄ばんだ白布は、図の曲線(a)に示すように、光線中の青色光を吸収するためその補色に当たる黄色を帯びて見える。そこで黄ばみを消すためには青色光を補ってやれば良いことになる。蛍光剤は図に示すように、350〜370nmの波長の紫外線を吸収し(曲線b)、その結果波長400〜500nmの青紫色の蛍光を発する(曲線c)染料である。蛍光剤が黄ばんだ布に付着すると、発生する蛍光で青色の反射光が補われる。一般には曲線dのように青色の反射光が増強されて、肉眼では青みを帯びて白さが際だって鮮やかに見える。

 

(7)生活の中の洗剤と界面活性剤

界面活性剤は、その分子が水にも油にもなじみやすい構造であるために、いくつかの有能な機能を持っている。生体内においても、「胆汁酸」「コレステロール」など多くの物質が界面活性剤として有効な働きをしており、また、われわれの日常生活においても界面活性剤が多方面に利用され、現在の生活にとって不可欠のものとなっている。

 

@歯磨き剤

普通、歯磨き剤の中には、1〜2%の界面活性剤が発泡剤として配合されている。練り歯磨き剤の処方例を表に示すが、この他に口臭除去剤・フッソ化合物・殺菌剤などが加えられている。界面活性剤は、その泡立ちと浸透力によって、研磨剤を助けて汚れを除去するのに役立っている。

 

Aクリーム・乳液

お互いに溶け合わない二つの液体を激しく振り混ぜると、一方の液体が他方の液体中に微粒子となって分散する現象が起こる。これを「乳化」といい、その結果生成した系を「エマルション」または「乳濁液」といっている。クリームや乳液は、水と油に界面活性剤(乳化剤)を加えることによって乳化させたエマルションである。

 

B化粧水

水と油に界面活性剤を加えて混合する場合、条件によっては透明な溶液を作ることもできる。この現象を「可溶化」という。これは、溶液中の界面活性剤がある濃度以上になると、溶液中に「ミセル」と呼ばれる集合体を作り、この中に油状物質が溶け込んで溶解度を増す現象である。このミセルは、粒子の大きさが3〜10nm程度であるために、透明に見えるのである。化粧水は、界面活性剤のこのような性質によって、香料や油分など水に溶けない物質を透明に溶解させたものであり、普通0.5%以下の界面活性剤が入っている。

 

C牛乳・マヨネーズ

牛乳は、生体の巧妙な仕組みの中で作られたエマルションである。これらは、水中に脂肪の小粒子が乳化分散したもので、天然のタンパク質が乳化剤の役目をしている。マヨネーズは多量の油を水中に乳化させたエマルションである。この場合の乳化剤は、主に卵黄のレシチンなどで、天然の物質が界面活性剤の働きをする。

食品に利用される界面活性剤は、当然のことながら毒性のないものでなければならない。現在、わが国で制限なく使用することができる食品乳化剤は、食品衛生法によって許可されている「グリセリン脂肪酸エステル」「プロピレングリコール脂肪酸エステル」「ショ糖脂肪酸エステル」「ソルビタン脂肪酸エステル」および「レシチン」の5種類だけである。このうち、大豆レシチンは、安価なことから非常に多く用いられている。

 

Dマーガリン・インスタントカレー

マーガリンは、だいたい80%以上の油脂中に20%以下の水分が乳化されている。そして、貯蔵中に水が分離するのを防止するため、「モノグリセリド」を0.2%程度、調理中の水はね防止、あるいは泡立ち防止剤として「レシチン」が0.2〜0.3%程度加えられている。カレールウは、油脂を大量に含有している。この油脂を乳化分散させるために、界面活性剤が油に対し1〜3%程度使用されている。

 

この他、アイスクリーム・果汁入り清涼飲料・パン・麺類などにも添加されている。

 

引用文献

1)「みんなで考える洗剤の科学」、井上勝也編、研成社(1987)

2)「図説洗剤のすべて」、三上・藤原・小林共著、合同出版(1983)