質問の後の( )内の数字は,類似した質問の総数を示します.(A)に授業担当者の意見,回答などを書きます.
[質問]
1.^(ハット)の意味が良くわかりません.
(A)ある記号,たとえばハミルトニアンが演算子であることを明らかに示すために^(ハット)記号を付けてのように書きます.特別な意味はありません.ハットのほかにも,~(チルダ)を使うことがあります.例えば,のように書きます.ハットやチルダが付いていても,声に出して式を読むときにはは省略することがあります.また,演算子であることが明らかであるようなときは,ハットやチルダを付けずに単にと書くこともよくあります.運動量としての と運動量演算子としての を区別したいときに使うと便利です.
2.規格化条件を満たさない関数例について教えて下さい.
(A)規格化条件というのは,ある関数Ψが波動関数であるために必要な条件のうちの1つです.他に,ΨとdΨが,1価,連続,有限という条件も満たさなければなりません.一般の関数は規格化条件を満たすべき必然性がないので,例をあげることに意味があるとは思えません.
[意見]
1.難しいので興味がわきにくい.
何をかいているのかわからんけど,この授業すきだ!
いい授業だと思う.
(A)何を言っているのか分からないのにもかかわらず出席してもらって有り難く思います.何しろ、お客さんあっての商売ですから.今のところ,私語もほとんどなく授業に差し支えるようなことは何もありません.いきなり,電子は波であって,波動関数で表わされ,シュレーディンガー方程式にしたがい,運動量などの物理量の情報は全て波動関数に含まれていて固有方程式を解けば良いなどと訳の分からないことを言いながら,黒板一杯使って偏微分方程式を解き始めたりしたら,カルト教団の怪しげなトンデモ科学のようにしか思えなくて当然でしょう.「生物」応用化学科に入学したはずなのに,偏微分方程式など見たくもないという人にとってはなおさらでしょう.生命科学分野での応用例を分かりやすく解説するには修行不足ですので,いましばらくご勘弁ください.
さて,「基礎量子化学」を担当している教員は,どんな講義を受けてきているのか,現在の研究と何の関係があるのか,受講生の皆さんに説明しておきたいと思います.私は核磁気共鳴分光法(NMR)を専門としていますので,日々量子力学から離れられません,量子力学を本格的に勉強し始めたのは,2回生後期の量子化学I(加藤義文教授)の講義が最初でした.この後3回生前後期と量子化学II,量子化学IIIと続いて合計6単位が量子化学でした(物理化学は別に8単位ありました).後に大学院で指導教授となる京大雑賀亜幌教授の「量子化学特論」があった他に,大阪市大西本吉助教授の「構造化学特論(量子化学)」や藤代亮一教授の「物理化学特論(分子統計熱力学)」などが,集中講義ではなく,隔週2時間ずつの講義として開講されていました.
高校理科の教員免許取得のために物理学概論という退屈そうな講義を取るよりは,まともな講義を取ろうと思って物理学科3回生向けの量子力学の講義(谷川安孝教授)を聞きに行きました.私1人ではなく,4人いました.他の3人も,同じ研究室(構造化学講座:加藤義文教授)で卒論を終えてから,京大理,東工大,MacGill大(カナダ)の大学院に進学して博士号を取得しています.量子力学は通年4単位の講義で,「良」をもらいました.谷川先生も,化学科の学生が4人も受講しに来て困ったのだと思いますが,物理学科の学生と一緒に期末試験を受けることなく,口頭試問で単位を出してくれました.谷川先生は素粒子論で業績のあった先生で,「日本物理学会の創立50周年に際して」(江沢 洋)という記事の中で,次のように紹介されています.「...この年、アメリカでは戦時のレーダー技術を応用した核磁気共鳴法が発明され、日本でも研究された。1947年には、同じ技術で水素原子のスペクトルに当時の理論を越えた微細な構造(ラム・シフト)が発見され、イギリスでは特殊な写真乾板が開発されて中間子に2種あるという仮説が実証された。後者の仮説は坂田と谷川安孝が1942年に提出していたものである。前者は朝永の超多時間理論に恰好の例題をあたえ、坂田の混合揚理論からの示唆とあいまって1948年に繰り込み理論として結実、アメリカでほぼ同時に独立に開発された 2つの理論形式とともに1965年度のノーベル賞を受ける。...」(http://wwwsoc.nii.ac.jp/jps/jps/topics/ezawa50/gakushikai-1.html)教科書はシッフ「量子力学」(吉岡書店)でした.当時の講義は,先生がスーと教室に入ってきて,ときどき黒板に式を書きながら淡々と流れるように説明して,スーと出て行く,というものでした.私語する学生などいません.理学部は実験以外には必修科目がなく,さらに出席をとるという習慣がほとんどないので,単位さえあれば良いという学生は初めから来ないために10数人しか教室にはいなかったように記憶しています.内容をきちんと理解しておられる先生の講義は大変素晴らしいものであり,講義時間が短く感じられました.京大大学院物理学専攻の集中講義で,東大を停年になって当時京大基礎物理学研究所におられた久保亮五先生の「線形応答理論」の講義を聞いたときも同じことを感じました.物理の院生よりも教員や私のような他専攻の院生の方が多いくらいで,連日大きな教室に溢れるほど聴衆がいましたが,講義時間中シーンとして久保先生の声しか聞こえませんでした.このような講義が理想の1つの形だと思っていますが,現在の状況では最低の評価を受けそうです.
2.授業のペースが少し速かったです.
ちょうど良い速さの進め方だと思う.
(A)受けとめ方は人それぞれですから,いたし方ありません.今日ぐらいのペースで,できるところまで進みたいと思います.
3.今後,量子的なものの考え方ができるよう努めたいです.
HPの質問コーナーを見ました.
(A)有り難うございます.工学部ですから,現実的な成果も挙げなければなりません.幅広い視点で,生命科学に量子化学を役立てることができるように期待しています.学部時代に最も感銘を受けたのが量子化学の講義であり,講義時間の何倍も自分で勉強していました.その後,量子力学と切っても切れない分野に進んで約3年間のフリーター生活の末に大学教員となったので,最も力が入るのは「基礎量子化学」です.アルバイトは大学や附属専門学校での講義で,最大週6科目10コマくらい担当していました.夜7時半から9時までの夜間短大の講義は時給が昼間の2倍以上あって大変助かったことを覚えています.今でも,ぎりぎりまで準備して行こうとするのですが,すべって空振りに終わることがしばしばあります.量子化学は,すべての化学の基礎であり、量子化学計算による有機合成反応予測や分子設計から,ナノテクノロジーまで勉強しておいて損はないと思いますのでよろしく.