寺田 聡  助教授 (大阪府出身) 


  研究の概要

1.糖尿病の細胞療法

 糖尿病は、予備軍まで含めると患者数が1620万人を越え、いまや国民病となっている。糖尿病治療を実現するために、インスリン生産能力を持つ膵島を用いた、セルセラピーを実現する。まず、ラットを対象として、より機能的な膵島細胞を創製し、これにより機能評価を行う。
 本研究は、医学部第一外科の山口教授・木村講師との共同研究です
(共同研究の風景へのリンク)



膵島の顕微鏡写真


2.バイオ人工肝臓

 脳死が認められ、我が国でも脳死移植が実施されるに至った。しかし世界的なドナー不足のため、人工肝臓に大きな期待がよせられている。本研究は、ハイブリッド型人工肝臓の機能を質的・量的に強化するため、培養肝細胞を細胞工学的手法で改良し、より人工肝臓に適した、新規の有用細胞を創製することを目指す。人工肝臓が長期間の利用に耐えられない原因に、アポトーシスという細胞死を想定した。そこで、肝細胞にbcl-2などのアポトーシス抑制遺伝子を導入し、肝機能を十分かつ長期間持続して発揮できる細胞株を樹立する。


3.絹タンパク質セリシンの応用

 再生医学の目的で用いられる細胞培養においても、牛胎仔血清の添加が必須となる場合が多い。それゆえ、狂牛病をはじめとする種々の感染の懸念もあり、哺乳動物由来の因子を用いることは、なるべく避けるべきであることと考えられている。そこで、動物細胞培養で広く用いられる哺乳類由来の培地添加因子の代替として、カイコ繭由来のセリシンタンパク質を検討した。その結果、セリシンによる増殖促進効果は、広い細胞系統にわたって観察され、有効性が示された。
 なお、セリシンは耐熱性のタンパク質であり、121℃の高圧蒸気滅菌でもほとんど損なわれないという利点を持っている。容易に滅菌できるため、それだけ利用しやすい。
 本研究は、セーレン社との共同研究で実施している。


4.ほ乳類細胞培養によるバイオ医薬品生産の、生産性向上

 ここ数年来、動物細胞培養を用いた医薬品生産が続々と実現し、その開発はなお増大している。ところが動物細胞培養には高額な血清の添加が求められるなど培養環境に多くの制限があることに加えて、増殖速度が遅い上に生産能力に乏しく、生産技術の発展が期待されている。しかるにわれわれはアポトーシス(細胞死)抑制技術を用いることで回分培養における有用タンパク質の生産性の3倍向上を世界で初めて達成した。このアポトーシス抑制技術をさらに発展させ、ほ乳類細胞培養によるバイオ医薬品生産の、生産性向上を実現する。


5.遺伝子治療ベクターの生産性向上

 先天性の代謝疾患の治療などの目的で、遺伝子治療が急速に進展してきている。しかしながら遺伝子治療用ベクター(遺伝子の、目的細胞への運び屋)の大量調製は、まだまだコスト高である。そこで、遺伝子治療ベクターの生産性向上を目指す。

寺田のトップページへ戻る