研究内容紹介

 当初、筋肉の収縮蛋白質として研究されたアクチンとミオシンは、真核生物の細胞運動全般に深くかかわっていることが分かってきた。アクチンとミオシンは、今では、極微少でかつエネルギー効率の極めてすぐれた分子モーターとして研究されている。  私達の研究室は、この分子モーターの動く仕組み、及びそれがどう制御されているかを解明するために、 (1) まず、その測定方法としては、主に蛍光測定という光学的手法を用いている。アクチンやミオシン、及びそれらモーター蛋白質を制御するトロポミオシンやトロポニンの特異的な部位を蛍光色素でラベルし、そこから出てくる蛍光を測定することにより、これら蛋白質の機能と構造との相関を調べている。 (2) この蛍光測定においては、蛋白質の特定の位置に蛍光色素を導入する必要がある。通常の化学修飾だけでなく、遺伝子工学で蛋白質を改変することで目的の位置の化学反応性を高めることにより、任意の望む場所に蛍光色素を導入している。  これら最近の研究により、いくつかの知見を得、筋収縮の制御機構について従来のステリックブロッキング説(図1)にとってかわる新しいモデル(図2)を提出した。

 本研究室で研究を進めていくには、1)基礎的な化学全般の素養、2)目的蛋白質を精製する生化学的手法、3)蛋白質を改変するための遺伝子工学的手法、4)蛍光測定及びその解析のための物理化学的手法、5)データ解析プログラミング等、生物化学工学において必要とされるほとんどすべての知識・技術が求められる。本研究室を志望した学生はこれらを遺漏無く習得し、生物・化学工学全般にわたっての活躍が期待される。  今後は、基礎研究だけでなく、蛋白質機能に関する知見を基に応用的な研究も進めていくつもりである。例えばマイクロマシンの開発、あるいは蛋白質は極めてすぐれた生体材料でもあるので、新素材への応用という面からも進めたい。  さらに、細胞工学の分野にも研究を発展させたい。近年、臓器移植に代わる新しい医療として、細胞療法が注目されつつある。そこで、拒絶反応を起こすことなく異個体に移植可能で、かつ有用な機能性細胞の創製を目指して研究を始めたいと考えている。

主な研究課題  1. 細胞運動とその調節の分子機構

        2. 有用な機能性細胞の創製

図1 ステリックブロッキング説:カルシウムイオンが無い時、トロポミオシンはアクチン上のミオシン結合部位をブロックして、ミオシンとアクチンが相互作用できなくする。

図2.新しい制御モデル: カルシウムイオンが無い時、TnIはアクチンのouterdomainに結合し、結果的にトロポミオシンとアクチンのouterdomainをクロスリンクする。2つのとなりあったトロポニンIによって囲まれたアクチン分子は不活性になる。

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